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執筆者の写真鎌倉 俊太郎

営業利益再考


営業利益再考

営業利益が注目を集めている


 営業利益という言葉を聞いたことがないというビジネスマン/ビジネスウーマンの方は少ないと思います。一方で営業利益がどのように算出されるのか問われると、意外に多くの方はよく分からないと答えるかもしれません。


 先日、国際会計基準であるIFRS(International Financial Reporting Standards)を定める団体が2027年度から営業利益の定義を明確にし、開示を義務化すると発表しました。実はIFRS採用する世界の上場企業約3万社の間で営業利益は同じルールで算出されていなかったのです。


 昨今は資本効率を意識した経営をするようJPXが上場企業に要請した経緯もあり、資本効率を加味しない損益計算書上の各段階利益よりROE(Return on Equity)やROA(Return on Asset)の方が注目されがちですが、営業利益は本業の稼ぎを示す重要な数値であることに変わりはありません。そこで今回は日頃よく耳にするものの実は奥深い?営業利益について改めて考えてみたいと思います。

 

IFRSの方針変更


 損益計算書や貸借対照表といった財務諸表は共通のルールに従って作成されています。このルールを会計基準と言いますが、会計基準にも米国基準、日本基準と言った国別の基準があります。この一つとして国際的に汎用的な会計基準であるIFRSがあります。


 IFRSは原則主義の会計基準とも呼ばれ、大きな原則はIFRSで定めるものの細目は財務諸表の作成主体である各企業の自主判断に判断をゆだねるという特徴があります。日本ではトヨタ自動車、ソニーグループ、NTTといったグルーバル大企業を中心に約300社が採用していますが、これらの企業の中でも営業利益の種類が10近くになるという状況にありました。


 営業利益の定義を明確にすることでこれらの企業の間で統一されたルールに従った営業利益が算出、開示されることになり、投資家をはじめとする財務諸表利用者にとっては各社間の客観的かつ合理的な比較がしやすくなるというメリットが生じます。

 

営業利益がなぜ重要か


 企業は本業のビジネス以外にもさまざまな活動を通じて利益を創出しています。歴史のある会社で不動産や有価証券等の資産を多数所有する企業が所有資産を売却すれば大きな含み益が実現して本業の稼ぎより大きな利益が出ることも珍しくありません。


 ROEやROAで通常使われる利益はすべての利益や損失を反映した最終利益である純利益であることが多く、実は本業が不振でもROEやROAが高くなって経営が順調であるかのような錯覚を招く可能性があります。特にROEは分母の自己資本を自社株買い等で操作できる余地があるため、単年度、さらに複数年度にわたっての事業が順調かどうか見るには営業利益、特に営業利益を売上で割った営業利益率は適切な指標と言えます。

 

営業利益の役割


 もっとも営業利益さえよければ経営は順調かと言われればそうとも言えません。短期的な営業利益を上げるために社員の働きやすい環境を作り出すための費用を節約する、さらには人件費そのものを抑制するような経営を続けていけば、社員のモチベーションを落としていずれ企業は衰退していくでしょう。ただただ取引先に値引きを要求するようでは、サプライヤー離れを招きます。行き過ぎた営業利益志向は会社の長期的な投資意欲を削ぐと言う指摘もあります。


 とはいえ、営業利益は本業の稼ぎ具合を端的に示す重要な数字であることは今後も変わらないと思います。営業利益の性質と限界を知り、他の数値とうまく組み合わせて活用することで、営業利益は企業経営を執行する側にとっても企業に投資をする側にとっても重要な数値であり続けると考えています。



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