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執筆者の写真倉地 準之輔

タイの退職給付引当金について知っておいた方がよい3つのポイント


タイの退職給付引当金について知っておいた方がよい3つのポイント

タイの退職給付引当金とは


 タイでは、定年退職が会社都合による解雇とみなされ、定年退職者に対して解雇補償金を支払う必要があります。この解雇補償金に充当する金額のうち、ある会計年度の終了時点において発生していると見積もられる債務額を引当金として計上するのが、タイの退職給付引当金です。


 タイで活動する多くの日系企業に影響する内容でもありますので、本稿では、タイの退職給付引当金について知っておいた方がよい3つのポイントについて解説します。


1.解雇補償金の金額は法律で決まっている


 冒頭記載のとおり、タイの退職給付引当金は定年による解雇に対する解雇補償金という性格を有します。ここで、解雇補償金は支払わなければならない金額が法律で定められています。具体的には以下のとおりです。


  • 勤続120日以上、1年未満の場合:給与30日分

  • 勤続1年以上、3年未満の場合:給与90日分

  • 勤続3年以上、6年未満の場合:給与180日分

  • 勤続6年以上、10年未満の場合:給与240日分

  • 勤続10年以上、20年未満の場合:給与300日分

  • 勤続20年以上の場合給与400日分


 このため、退職給付引当金を計上する場合、この金額を基礎にして計算を行うことが通常です。他方、この金額以上に退職に当たっての給付支払を行う旨の自社ルールがある場合、その分についても退職給付引当金を計上する必要が生じる可能性がありますので、注意が必要です。


2.計算方法の詳細が決められていない


 日本には退職給付引当金に関する独立した会計基準があり、計算方法も詳細に定められています。一方、タイには退職給付引当金に関する独立した会計基準は存在せず、引当金の一種として『最善の見積もりにより認識することを要請』との記載があるのみで、退職給付引当金の計算方法の詳細が会計基準上示されているわけではありません。


 一応、会計基準の発行主体であるFAP(タイの会計基準発行機関)が発行した計算方法の例は存在しますが、実務上も会社ごとに様々な方法で計算されているのが実情です。


 逆に言えば、上記のとおり最善の見積もりであるという説明ができる限りにおいて、計算方法が様々にとりえるということですから、もし自社の退職給付引当金の金額に見直しの必要があるようであれば、計算方法について再検討することが有用だということになります。


3.繰入額について税務上は損金にできない


 これは日本と同様ですが、退職給付引当金の繰入額については税務上損金算入できません。このため、退職給付引当金の繰入額を計上すると、費用が増えて会計上の損益状況が悪化する一方で、税務上は損金が増えないので法人税は減らない、ということになります。要するに『利益は減るのに税金は減らない』という状況を引き起こすのが退職給付引当金の繰入額だ、ということです。


 結果として、例えば『利益が出ていないのに、法人税は払わなければいけない』という状況を引き起こす原因にもなります。この点、日本の経理部からタイの財務諸表に対する質問として聞かれたりもしますので、特にタイで初めて経理業務に従事する方は覚えておくべき重要なポイントです。


タイの退職給付引当金に対する適切な対応をするために


 タイの退職給付引当金に対する効果的な対応を行うためには、以下のステップを理解し、実行することが重要です。


1. 専門家からの助言を活用する


 退職給付引当金は、計算方法や税務上の扱いが複雑であるため、タイの会計・税務に精通した専門家のサポートを受けることが不可欠です。特に、各企業ごとに適切な引当金の計上方法を検討する必要があり、その過程で労働法や税法に詳しい専門家からのアドバイスを受けることで、適切な対応ができます。タイには日本語対応が可能な専門家も多く存在しているため、スムーズに情報を共有し、最善のアプローチを共に模索することが可能です。


2. 引当金の定期的な見直し


 退職給付引当金の計上は、年次で適切な見積もりを行い、必要に応じて見直すことが求められます。従業員の年齢構成や勤続年数の変動により、退職金支払額の予測が変わるため、定期的に従業員のデータを見直し、最新の労働法や会計基準に基づいて引当金を再評価することが重要です。


 また、タイの法律における法改正が発生する場合もあるため、それに対応するための情報収集を怠らず、継続的に管理することがリスク軽減につながります。


3. 会計上・税務上の対応を理解し、準備する


 退職給付引当金の繰入額は、税務上損金に算入できないため、法人税への影響が発生する可能性があります。このため、会計上の費用計上が利益減少につながる一方で、税務上の利益には変動がない状況が生まれることがあります。特に、利益が出ていない状態でも法人税が発生することがあり、この点を事前に把握し、適切な対応を行う必要があります。


 また、退職給付引当金に関する計上や報告が企業の財務諸表にどのような影響を与えるかをしっかり理解し、日本本社や他の利害関係者に対して明確な説明を行う準備をしておくことも重要です。


結論として


 タイにおける退職給付引当金の適切な対応は、専門家の助言を得ながら、企業の財務や税務への影響を把握し、定期的な見直しを行うことが成功への鍵です。本稿が、タイでのビジネスに取り組む皆様のお役に立てれば幸いです。



【免責事項】

本稿は、一般的な事項についての情報提供を目的として作成されたものであり、実際の遂行にあたっては、多くの場合関連法規の検討、並びに専門家との協同が必要になります。このため、執筆者並びにその所属先は、本稿の利用に起因する如何なる直接的・間接的な損害に対しても一切の責任を負いかねます。また、本稿記載の情報は作成時点における調査に基づいたものであり、随時更新される可能性がありますことをご了承ください。


 
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