タイにおける資金繰りとは
タイにおいて資金繰りとは、日本国内とは異なる実務慣行・金融環境・法制度の中で、事業の資金管理や調達を行うことを指します。日本と異なる点について理解したうえで、しっかりとした準備と対応をすることが求められます。本稿では、タイの資金繰りにおいて知っておきたい3つのポイントを解説します。
1. 経理担当者が資金繰りを見てくれるとはかぎらない
タイでは、経理担当者の主な役割は過去の情報をもとにした会計記帳・税務申告業務です。彼らの仕事は会計帳簿や税務申告書を正確かつ期限内に作成することであり、そちらを優先する傾向にあります。結果としてこれらの業務に含まれない業務、そして根本的に未来の予測に基づく情報である資金繰りの管理については必ずしも実施してくれるとは限らない、という実務実態があります。そのため、経理担当者が資金繰りを管理してくれるとは限らず、担当者不在の場合も多々あります。
このような状況では、経営者や他のメンバーが資金繰りをカバーする必要があります。毎月のキャッシュフロー管理や銀行口座残高の確認など、具体的な管理業務に関与することが求められる場合もあります。経営者として、資金繰りについては誰が実施するのかを明確にし、適切に対応することが欠かせません。
2. 資金調達の方法は限定的
日系企業のタイでの資金調達は選択肢が限られています。タイ国内の市中銀行からの借入金利はおおむね7.0%前後と、日本の市中銀行よりも高い水準にあります。このため、多くの日系企業は以下のような方法で資金調達を行っています。
自己資金:事業開始時の資本金や内部留保金を活用する。
親会社貸付:日本の親会社からの貸付金を利用する。
親会社貸付は、その取引としての妥当性を確保する意味でも、タイ国内の市中銀行での借入金利よりは低いものの、日本国内の低リスク金融資産による運用金利よりは高い水準で設定されることが望ましいと考えられます。
他方、必ずこの金利でなければならないというルールがあるわけではなく、個別ケースでの判断が求められます。税務リスクを回避するためにも、親会社貸付の金利設定は慎重に行い、専門家のアドバイスを仰ぐことをお勧めします。
3. 借入金の資本金繰入れは不可
タイの法令上、日系企業の多くを含む未上場企業による借入金を資本金に振り替える「デット・エクイティ・スワップ」が禁止されています。このため、タイ子会社にとっての借入金が増加してしまった後に、当該金額を資本金に振り替えるといった方法は採用できません。
もし、借入金を資本金に充当したい場合は、いったん借入金を返済し、その後に資本金を追加注入する必要があります。このプロセスには増資に必要とされる株主総会の特別決議や社内調整など、時間と手間がかかるため、事前に資金計画をしっかりと立てておくことが重要です。また、この流れをスムーズに進めるために、現地の法規制や手続きに詳しい専門家と連携することが推奨されます。
まとめ
タイでの資金繰り管理は、事業運営の安定性を確保するために非常に重要です。適切な準備と管理を行うことで、予期せぬ資金不足やトラブルを回避し、健全な経営を維持できます。本稿で解説した3つのポイントを参考に、タイでの資金繰りに備えてください。
タイの資金繰りについてさらに詳しく知りたい場合や具体的なサポートが必要な場合は、ぜひ専門家にご相談ください。本稿が、タイでのビジネスに取り組む皆様のお役に立てれば幸いです。
【免責事項】
本稿は、一般的な事項についての情報提供を目的として作成されたものであり、実際の遂行にあたっては、多くの場合関連法規の検討、並びに専門家との協同が必要になります。このため、執筆者並びにその所属先は、本稿の利用に起因する如何なる直接的・間接的な損害に対しても一切の責任を負いかねます。また、本稿記載の情報は作成時点における調査に基づいたものであり、随時更新される可能性がありますことをご了承ください。
「タイはなんでこんなに月次の決算が遅いんだ!」
「タイはなんでこんなに経理スタッフが多いんだ!」
タイで働き始めた日本人の方とお話させて頂くと、このような課題を挙げられる方が多くいらっしゃいます。
タイで決算が遅くなる原因は何か?
社内業務の効率化に向けた予備知識として、知っておきたいタイの会計・税務を動画にしました。お時間のよろしいときにこちらもご視聴頂けましたら幸いです。