タイにおける債権管理とは
タイにおいて債権管理とは、企業が顧客に対して持つ売掛金や貸付金などの債権について回収可能性に応じてその回収に向けた適切な管理を行うプロセスを指します。この点、タイでは債権管理に関連する税務上要件やビジネス慣行が日本と異なるため、債権回収においても現地の事情に合わせた対策が必要です。そこで本稿では、タイの債権管理において知っておきたい3つのポイントについて解説します。
1. 貸倒引当金は損金不算入
タイでは、貸倒引当金(将来の貸倒れに備えて計上する引当金)が会計上は計上できる一方で、税務上は損金として認められません。日本でいうところの一般貸倒引当金や個別貸倒引当金のような区分もなく、貸倒引当金については税務上損金として認められないという制度になっています。
このため、企業が法人税申告を行う際は当該貸倒引当金に関する繰入額については損金不算入費用として処理し、課税所得に加算するという処理を行うことになります。結果として、企業は引当金を計上したとしても実際の法人税負担を減らすことはできません。経理担当者ではなくても、こういった差異が存在するということについては理解しておくことが望まれます。
2. 貸倒損失も損金算入するには一苦労
貸倒損失を損金に算入するためには、タイの税法に定めれる債権区分である少額債権(200,000バーツ以下)、中規模債権(2,000,000バーツ以下)、高額債権(2,000,000バーツ超)という区分ごとに厳格な条件が求められます。
例えば少額債権の場合は『適切な支払催促を行っているものの返済がなく、裁判費用が回収可能な債権額を上回ると見込まれる場合』といった条件で足る一方、中規模債権以上になると債務者に対する訴訟手続や破産手続の存在が必要になり、条件がかなり厳しくなります。
こうなってしまうとその条件を満たすのも簡単ではなく、貸倒損失を損金として認めてもらうだけでも手間とコスト、何より時間がかかることになります。このため、そもそもこういった状況にならないようにすべく、未回収リスクの軽減に向けた事前の契約管理や財務計画が重要となります。
3. 回収方法にも工夫が必要
タイでの債権回収では、現地の商習慣やビジネス文化を踏まえた柔軟な対応が求められます。強引な回収方法は相手との関係を悪化させるリスクがあり、慎重な対応が必要である一方、現地企業の経理マネジャーにヒアリングすると、『支払が遅れても怒ってこないところに対する支払は、必要に応じて遅らせる。これで資金繰りが改善できる』という手管に関する話も聞こえてきたりして、加減が難しいところです。こういった状況になることを未然に防止すべく、前金でもらう、小切手をあらかじめ回収しておく、といった方法も有効になるでしょう。
他方、後金で実施する商売で、どうしてもうまくいかない場合は、『交渉と督促』『訴訟提起』『強制執行』といったプロセスを経て回収することになるかと思いますが、これには時間がかかりますし、現地に精通した法務や顧問弁護士を活用し、法的な手続きをサポートしてもらうことも必要になってしまいます。こちらについても、未回収リスクの軽減に向けた事前の契約管理や財務計画が重要となるでしょう。
まとめ
タイの債権管理は、すべての企業にとって重要な要素であり、適切な管理が事業運営において大きな役割を果たします。日本と異なる税法上の要件やビジネス慣行に留意しつつ、計画的な債権管理を行うことが重要です。本稿が、タイでのビジネスに取り組む皆様のお役に立てれば幸いです。
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