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執筆者の写真鎌倉 俊太郎

実質賃金がなぜ伸びないのか考える


タイの会計・税務の基礎知識、会計事務所の選び方、定評ある会計ソフト・ERPシステムの説明等を分かり易く解説。

なぜ実質賃金が上がらないのか


 先日の厚生労働省が発表によると、日本における実質賃金が21か月連続でマイナスだった事が分りました。これは物価の上昇に賃金の上昇が追い付いておらず、名目上の賃金は増えても実質的には家計の購買力は低下していることを示しています。


 タイでも同様に都市と地方では格差があるとはいえ、最低賃金を切り上げても実質賃金はマイナスではないかとみられています。今回はなぜ実質賃金が上がらないのか、国によっても事情が異なるので日本の事情に照らし合わせて考えてみたいと思います。

 

物価の変化と雇用環境


 2022年より、石油か天然ガス等のエネルギー価格の上昇、海上運賃の上昇等の影響で世界的にインフレ傾向が強まりました。30年以上デフレが続いた日本も例外ではなく、大企業が中心に価格転嫁がすすんだ事もあって食料品や日用品の値段、さらに人件費も上がり始めました。


 人手不足の影響もあって大企業中心に賃金上昇の傾向が認められましたが、元々賃上げ原資に乏しい企業はなかなか賃金があげられず、苦しい状況が続いています。失業率は直近の統計では2.4%と低い状況ですが、実質賃金が低下し続けたままの状況で働いている人たちの満足感は決して高くないと思われます。

 

なぜ賃上げ原資が確保できないのか


 企業の側も賃上げしようにもその原資の裏付けと見通しが立たなければなかなか実施に踏み切れません。いろいろな要因があるにせよ、賃上げ原資の確保ができない一番の要因は収益力の低さ、特に生産性が低い点にあるのではと言われています。欧米企業にくらべ、日本企業は生産性向上のための投資、特にノウハウや人的資本等の無形資産を意識した投資が相対的に少ないと言われています。


 さらに労働市場の流動性が低く、賃上げをすすめなくても社員が簡単には会社を辞めない状況があるがゆえに賃上げプレッシャーが経営者にかかりにくい状況が作り出されているともされています。他にも多くの中小企業が大企業の下請け的な立場に置かれていることが多く、価格転嫁を実施しずらい状況が低収益な要因の一つとされています。

 

個々人の意識を変える方が近道かもしれない


 賃上げ原資を確保するには一企業の努力だけでは難しい社会的な環境もあり、様々な経営施策が効果を生み出すのも時間がかかります。そこでやや乱暴ですが、個人レベルで何が有効な手段がないか考えた場合、もっと転職が活発になればいいのではと考えます。日本ではまだまだ労働市場の流動性が低く、若い人たちには転職への抵抗感がだいぶ薄れてきたとはいえ、まだ欧米ほど一般的ではありません。


 一方、転職が一般的になれば、優秀な社員を採用し引き留めていくためには企業は賃上げをはじめとして社員の待遇改善の努力を経営上の優先事項とせざるをえません。それが出来ない、またはしようとしない企業からは人材が去り、企業再編のきっかけとさえなる可能性があります。私は転職エージェントではないので転職を煽るつもりは毛頭ありませんが、個々人の意識と行動が変わる方が閉塞感のある現状を変える近道になりうると考えています。


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