タイの退職給付引当金と退職給付費用に関するQ&A
タイの「退職給付費用/ Employee benefits」は決算調整時に会計スタッフまたは監査人によって計算され、その計算結果は決算報告書に記載されます。特に従業員を多く雇用している企業は、この退職給付費用が当期損益に大きく影響することがあります。今回は、この退職給付費用についてよく頂く質問について整理します。
Q:取締役は退職給付引当金の計算対象になりますか?
A:基本的な考え方として、その取締役は社会保険に加入しているかどうかです。
経理・財務部長、工場長、事業部長等の職制上の地位を持ちながら取締役としての職務も行っている使用人兼取締役は、退職金支給に該当するため、基本的には退職給付引当金計算の対象です。
Q:駐在員も退職給付引当金の計算対象ですか?
A:タイ法人ではなく、日本本社で退職金が駐在員に支払われる場合、退職給付引当金計算の対象外として扱うことができます。実態に合わせて、合理的な計算方法を決めることができます。
Q:200名以上の従業員について、引当金を計算する場合、どのような方法がありますか?
A:中小企業の場合、最善な計算方法で費用を計上して良いことになっています。
例えば、45歳~定年退職年齢55歳、または50歳~定年退職年齢60歳に該当する従業員を抽出し、退職給付引当金を計算することも可能です。
また、労働者保護法上、決算期末時点の勤務期間が120日未満または試用期間中の従業員は解雇補償金が不要のため、退職給付引当金計算の対象外として扱うことができます。
Q:退職給付費用の計算について、源泉税P.N.D.1に該当する従業員の他、源泉税P.N.D.3に該当する個人の外注契約も対象になりますか?
A:退職給付費用の計算は、源泉税P.N.D.1に該当する従業員が対象です。よって、源泉税P.N.D.3に該当する個人契約は対象外になります。
Q:会社は企業年金の退職金積立基金(Provident Fund)を導入しています。この場合、退職給付引当金の計上は不要と判断して良いでしょうか?
A:現時点において、任意加入の退職金積立基金を実施しても、タイの労働者保護法に定められている解雇補償金の見積額を認識しなければなりませんので、会計基準に従って、退職給付の計上は必要です。
Q:退職給付引当金はどんな時に取崩されますか?
A:定年退職者に支払った解雇補償金(退職金)は、退職給付引当金から取り崩しが可能です。 この取り崩した金額は経費として認められます。
Q:退職給付費用を多く計上することにより、法人税節税になりますか?
A:退職給付費用は会社が実際に支払った費用ではなく、見積額として費用計上の段階ですので、法人税計算上、この見積額は経費不算入扱いになり、法人税の節税にはなりません。但し、期中に定年による退職給付が支給された場合、法人税計算上、この支払は経費として扱われますため、法人税は減額されます。
Q:決算報告書の退職給付費用がマイナス表示でした。マイナス表示は何を意味しますか?
A:期中に従業員の退職者が発生したため、退職給付費用は減額されました。上記の計算結果を下記のとおり、財務諸表に反映されます。
貸借対照表(B/S)の『退職給付引当金』:970,000THB
損益計算書(P/L)の『退職給付費用』 :-30,000THB
Q:月次予実管理をしている会社は、決算処理後の当期利益が退職給付費用の計上によって、収支が大きく乖離することがあります。退職給付費用計上は決算期末しか計上できないですか?
A:予測した当期損益の下振れを抑制する方法として、毎月、退職給付費用の平均値をP/Lに計上しても良いです。
但し、期末時点に在籍している従業員のデータを基に、退職給付費用を算出し、これまで計上した予測値との調整を行ってください。
【免責事項】
本稿は、一般的な事項についての情報提供を目的として作成されたものであり、実際の遂行にあたっては、多くの場合関連法規の検討、並びに専門家との協同が必要になります。このため、執筆者並びにその所属先は、本稿の利用に起因する如何なる直接的・間接的な損害に対しても一切の責任を負いかねます。また、本稿記載の情報は作成時点における調査に基づいたものであり、随時更新される可能性がありますことをご了承ください。
「タイはなんでこんなに月次の決算が遅いんだ!」
「タイはなんでこんなに経理スタッフが多いんだ!」
タイで働き始めた日本人の方とお話させて頂くと、このような課題を挙げられる方が多くいらっしゃいます。
タイで決算が遅くなる原因は何か?
社内業務の効率化に向けた予備知識として、知っておきたいタイの会計・税務を動画にしました。お時間のよろしいときにこちらもご視聴頂けましたら幸いです。