高額購入の損金不算入
皆様こんにちは、Bridge Note (Thailand) Co.,Ltd. の片瀬です。
今日は内国歳入法第65条3項に記載されている「高額購入の損金不算入:課税所得の算定にあたり、合理的な理由を持たず、公正妥当な金額を超えている資産の購入等に関しては損金の額に算入しない」についてお伝えします。
この第65条3項のポイントは「合理的な理由」とされています。合理的な理由がなく金額を定めたものに関しては基本的に損金の額に算入しないというのがタイの税務当局の考え方です。
多国籍企業では管理コストの一元化、研究開発の一元化として日本にある親会社(又はグループ内にて当該機能を担っている会社)により一元管理が行われます。近年では、日本の税務当局からこれらの海外子会社への役務提供やロイヤルティについての請求をするように指摘があります。
親会社においては各国の負担能力に対して配慮をするために、売上高の割合に応じ、これらのコストを按分して請求することが多い現状があります(売上高に応じ、一律3%とするような定め方も多い)。
タイにおいては残念ながら、これが認められません(按分計算や一律計算による費用負担を認めない傾向にある)。
また、「タイにおいて認められない費用(赤字におけるマネジメントフィーやロイヤルティの回収も含む)なのでタイに負担させることはできない。」と日本の税務当局に伝えると、「名目はなんでも良いので実態に沿った費用負担はさせてください。」と返されます。
この場合、どちらを説得するかというと基本的にはタイの税務当局となります(ロイヤルティなどは、役務提供の対価ではなく、超過収益力であるために、もし赤字等で超過収益力がないと認められるときは日本の税務当局に対しても反証できる可能性はあります)。
上記の内国歳入法第65条3項のポイントは合理的な理由であるために、当該タイに負担させる客観的で合理的な理由があれば良いのです。
そのため本社経費の支払いに関する金額の計算根拠及び費用の効果の証明書類を残す必要があります。計算根拠等は親会社が保存していることも多いために、関連書類を親会社から取り寄せ、タイ人マネージャーにもしっかりと共有する必要があります。
多国籍企業であれば役務提供費用や無形資産などのポリシーを移転価格ドキュメントの1つである「マスターファイル」に記載します。
日本での連結売上高が1,000億円を超えておらずマスターファイルの作成義務がない会社においても移転価格ポリシーを作成することは重要です。移転価格ポリシーの具体例を確認してみましょう。
【移転価格ポリシー(役務提供)具体例】
契約内容:業務委託契約
役務提供者:日本親会社
役務受益者:タイ子会社
役務内容:役務受益者は管理部門業務のうち一部を役務提供者に委託する。役務提供者は役務受益者に対して管理サービス(具体的なサービス:〇〇〇〇)を提供し、役務受益者より対価を収受する。
取引フロー:※取引フロー図を挿入
適用する移転価格算定方法:TNMM(取引単位営業利益法)
【価格設定方法の内容】
・役務提供者が使用する利益水準は総費用営業利益率とする。
・役務受益者は限定的な機能、リスクを有している。
・役務受益者は両者(役務受益者及び役務提供者)が保有する機能、リスク、資産に応じ、適切な業務委託料を設定する。
移転価格の検証方法:総費用営業利益率が、ローカルファイルの独立企業間利益率レンジに収まる場合には、当取引価格は移転価格関連法令に基づき設定されていると判断できる。
ポリシーを記載するとこんな感じです(ポリシーのレベル感は会社によって異なるために、もっと簡易なポリシーになることも往々にしてあり得ます)。
ただ、このポリシーだけでは合理的な理由とは判断されないために、このポリシーを基に作成したローカルファイルを用いて価格の合理性を証明します。
この際にTNMMを利用しているというところもポイントであり、TNMMであれば多くの比較対象企業を抽出できるために利益率レンジが広くなり、ある程度価格に幅を持たすこともできるようになります。
多くの会社では本社経費(この場合は管理コスト)の支払いに関する金額の計算においては、対応部門における人件費などを時間単価に落し込み、工数管理表を基にベースとなる金額を作っているように思います。
ただし、この金額は原価としては客観的ですが、この金額に利益を載せた金額は客観的なものとは言えないために、やはり移転価格のドキュメントを基に価格の正当性は主張する方がよいでしょう。
タイにおいては2015年5月に首相府より移転価格税制改正案の骨子が公表されています。
2016年中には改正されるといわれていたのですが、実際には2016年中の改正はなく、おそらく2017年、2018年での移転価格税制の改正となるでしょう。
現段階では対象企業がどれくらいの規模の企業になるかは不明ですが、親会社との取引金額がそれなりにある(数億程度)会社に関しては、関連会社間の取引価格の正当性は基本的に移転価格ドキュメントにて対応することができますので、移転価格税制を網羅的にとらえて考えておくべきかと思います。
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