皆様こんにちは、Bridge Note (Thailand) Co.,Ltd. の片瀬でございます。
以前に国外関連者に対する寄附金について日本側からの視点で書かせていただきましたが、今日はタイ側の視点で問題点を炙り出してみようと思っています。
使うのは前回と同様に国税局が出している「別冊:移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」です。前回のコラムはこちらをご覧ください。
(別冊:移転価格税制の適用に当たっての参考事例集より)
<事例25>
国外関連者に対する寄附金(タイ視点)
(法人及び国外関連者の事業概況等)
日本法人P社は、製品Aの製造販売会社であり、3年前に製品Aの製造販売子会社であるX国法人S社を設立した。
S社は、設立の直後から製品Aの製造工場の建設に着手し、工場は建設工事開始から1年後に完成したが、現地採用従業員の機械操作等に対する習熟度が低いことなどから当初の生産計画を達成できていない状況にある。
(国外関連取引の概要等)
P社はS社の製造工場完成後に製品A製造設備に係る保守・点検やS社従業員に対する教育訓練等の業務を行うため、P社社員をS社に派遣している(当該業務にP社の無形資産は使用されていない。)。
P社はS社に対するこれらの業務に係る役務提供の対価を収受していない。
前回はこの「対価を収受していないこと」が無償による役務提供に該当し、日本側で寄附金課税の対象になるかが論点となっていたかと思います。
タイでは反対に「対価の支払いをしていない」ことが問題になるか否かですが、率直に言ってしまうと“問題にはなりません”。
この考え方は全世界共通なので覚えておいていただきたいのですが、
“収益を収受していない場合には(その収益に対応する)税金が支払われていないために”問題になりますが、“費用が支払われていない場合には税金を多く支払っているために(費用を計上しない分利益は過大になるため)”ほとんどの場合、問題にはなりません。
つまり問題となる可能性があるのは、対価を支払っている場合なのです。
対価を支払っている場合には、その支払いに付随して源泉税が必要となります。
ただし、契約の内容によってこの源泉税率が変わってくることが、今回のコラムの内容です。
源泉税とは、支払者が税金分(所得税)を差し引いて対価の支払いをする場合におけるその税金のことをいいます。
タイから日本への送金の際は基本的にこの源泉税を差し引いて送金されますが、上記事例のような役務提供の場合には、源泉税がかかる場合と源泉税がかからない場合があるために、それぞれパターンに分けて説明しようと思います。
・・・とその前に、IGS(Intra Group Service)について説明しなければなりません。
IGSはその名の通りグループ間取引をいいます。
グループ間の取引であれば親会社が取引価格を決めることができるために、自由に利益を軽課税国(税率の低い国)へ移転することができます。
タイから日本へ多額のIGS Feeを支払っていれば、それだけタイに落ちる税金は少なくなってしまうのです。
そのため、タイの税務当局においてもIGS は積極的に調査を実施している項目であり、日本企業において実際に課税を受けている企業も存在します。
今回のコラムはIGS取引ということが前提ですので、次の部分には十分に注意していただければと思います。
IGS取引において注意する項目
①役務提供の内容
②利益の存在及び客観的根拠
③費用配分の妥当性
④マークアップの元となるコストの妥当性
⑤マークアップ率の妥当性
これらが明確でなければ、利益移転(その支払った費用が認められない)とされ多額の追徴課税を受けることにもなりかねませんので、まずはIGSであるということをしっかりと認識する必要があります。
話を戻すと、技術支援・教育支援に該当する役務提供にかかる源泉税のパターン分けでしたね。実はこの場合の源泉税を考える上でのパターンは2つしかないんです。
パターン
・サービスフィー(事業所得)に該当する場合
・使用料に該当する場合
パターンとしてはこれだけしかないのに、これが難しいといわれているのはその呼称が無数にあり、定義付けも十分にされない中で濫用されてしまっているためです。
例えば、ロイヤルティ、テクニカルサービスフィー、マネジメントフィー、技術役務提供、人的役務提供などが良く呼ばれるものとしてありますが、これらはただの呼称として覚えてください。
サービスに関する源泉で大切なのは「サービスフィーに該当するか?」「使用料に該当するか?」だけです。
※日タイ租税条約の7条(PEなければ課税なし)と12条(使用料について)より。
※今回は「サービスフィー」という言葉を使っていますが、単なる事業所得であり、私は「テクニカルサービスフィー」ということが多いです(人それぞれです)。
※使用料とロイヤルティは全く同一のものです。
これはサービスフィーであるから源泉課税されないというわけではなく、「租税条約の7条」よりPE(恒久的施設)を通じずに事業を行って得た所得であるために課税されません(これゆえ租税条約の7条にちなんで、“PEなければ課税なし”とよく言われます)。
ここが非常に重要です。
例えば、親会社から技術支援のために作業員をタイに送り、タイの子会社で役務の提供を行った場合には親会社から見ればタイにPEはありません(子会社は別会社のためにPEではありません。PEは子会社ではなく支店【同じ会社の中の別拠点】と覚えてください)ので、対価の支払いをする際に源泉税を控除する必要がないのです。
ただし、使用料はPEがあろうとなかろうと源泉税が課税されます。
これはサービスフィーとは別に使用料というものが定義されているためです。
使用料は「特許権などの権利および商業上などのノウハウ」を言います。
サービスフィーと使用料は全く別物と定義されているので、親会社が子会社に上記事例のような役務提供を行った場合には、「PE認定されないか?」、「使用料認定されないか?」というところさえ押さえておけば基本的に源泉徴収されません。
もちろんこれが実務上は難しく、“技術支援のための役務提供”において「ノウハウ」が移転したかの判断は容易ではありません。
そのために多くの会社では、契約時において「サービスフィー」の部分と「ロイヤルティ」の部分を分けているのです。
タイにおいては、基本的に使用料の部分を分けていなければ、全額がロイヤルティだとされて15%の源泉税を追徴されてしまいます。
ただし、少額でもロイヤルティの部分を明確にしていれば、タイ当局もそのロイヤルティの金額が適正であるか否かを証明することは簡単にできません(移転価格調査の範疇になってしまうため)。
近年では、移転価格税制の新ルール(マスターファイル、ローカルファイル、CBCレポート)がOECDのBEPS-PJによって新たに定められました。
日本においても一昨年は出国税が新設され、今年はタックスヘイブン税制の改正があるなど、国際税務関連の改正は毎年あります。
全世界的にみても、各国が自国に何とか税金を落とそうと躍起になって法律を整備しています(統一のルールを作ろうとしています)。
税務調査においても、国際税務関連は絶対に調べられるところになるために事前の確認が必要になります。
まずはIGSをしっかり確認。
IGSの金額が大きい会社は潜在リスクがとても大きいと思います。
税務調査の際に指摘される可能性が高い項目は、予め数字を作っている会計事務所に聞いてみてください。
事前にリスクファクターを洗い出し、それに対する想定問答集など作ることによって、予期せぬ質問にも対応することができるようになり、とても効果的です。
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