不正を防止するタイの会計士
皆様こんにちは、Bridge Note (Thailand) Co.,Ltd. の片瀬です。今回のコラムは「不正を防止するタイの会計士」について書こうと思います。
タイにおいてはすべての企業において法定監査が義務付けられており、原則的にはタイ国の会計士による監査が必要とされています。監査済の計算書類等は4か月以内の株主総会にて承認されなければならず、規定上は株主総会の3日前までに株主全員に送付されていなければならないとされています。
ただし、毎年の法定監査が行われているにも関わらず、不正が行われてしまった案件も少なからず耳にしますので、「何故、不正が防げないのか?」、「どのような不正が行われてしまっているのか?」など実態を基にお話ししていこうと思います。
まず不正を考える上で重要なことは、「帳簿内の不正」と「帳簿外の不正」をしっかりと認識することです。監査によって防ぐことができる不正は「帳簿内の不正」であり、「帳簿外の不正」については監査手続き上で明るみに出ることは残念ながらあまりないように思います。
それでは実際に起こる可能性がある不正の内容を確認していきましょう.。
【不正事例:購買担当者へのキックバック】
帳簿外の不正としてよく行われるものに「購買担当者へのキックバック」というものがあります。これはローカルサプライヤーに対して発注額を水増しして発注し、購買担当者がキックバックを受けるというものです。帳簿上には購入価額が適正額であるか否かという情報は記載されず、事実としていくらで購入したかが記載されるだけです。
つまり購買担当者へのキックバックは帳簿上には反映されないために、足がつきにくく不正の中で一番利用されています。一般的にはタレコミ以外で発覚することは少ないために、常に3社程度の相見積もりを取得するという社内ルールを構築するなど、不正が起こらない体制を作り対処することとなります。
【不正事例:簿外金庫】
キックバックにかかる事例に日本人が関与している場合も考えられます。ローカル社員が行う不正は自分のポケットを潤すための不正が殆どですが、日本人は業務を滞りなく回すために不正を行っている場合があります。
例えば、タイにおいては未だにアンダーテーブルなどの支払いを求められることが少なからずありますが、日本本社からはアンダーテーブルの支払いは絶対に行ってはならないと指導されている場合などに起こり得ます。経費の水増し請求や購買の際のキックバックなどを簿外金庫に入れておき、アンダーテーブルを求められた際にその簿外金庫から支払いを行います。日本人責任者としては業務を円滑に行う以外の目的はなく、不正として認識されづらいものです。
また、金額的にも高額になることは少なく、現地責任者の裁量で行っている場合が殆どですので、親会社や第三者の確認がなければまず発覚することはありません。後ほど記載するAdd Back Expenseの内容の精査、日本人の経費精算シートの確認など定期的に第三者が確認するという社内ルールを構築するなど、不正が起こらない体制を作り対処することとなります。
【不正事例:現預金の不正利用】
会計事務所が経理担当者の作成したエクセルの預金出納帳により記帳又はレビューを行っている場合などに起こるものです。
具体的には、月初にローカルの経理担当者が1000万バーツほどを会社の預金口座から引出し、短期金融商品で運用した後、月末までに当該1000万バーツを預金口座に戻すという手法です。記帳を行わない場合が多いですが、記帳を行っている場合には「その他未収入金」や「仮払金」などの経過勘定に一度振り替えて、月末までに振り戻しています。
監査においては年度末の残高が一致しているかを主に確認する会計士が多く、期中の入出金までは確認しないことが多いです。こちらも日頃から親会社においてBank Statementと預金出納帳がしっかり一致しているか、多額の引き出しがないかを常に確認することが必要です。
【不正事例:売掛金の不正回収】
こちらの事例は監査によって明るみに出る可能性が高い「帳簿内の不正」となります。営業担当者が取引先からの売掛金の回収を個人口座にて行い、会社へは回収ができないと報告することにより発生します。
帳簿上は売掛金が回収できずに滞留することになりますが、その実態は個人口座に既に回収されているものであり、営業担当者に回収責任までを持たせるとこのような事例が起こる可能性があります。
監査においてもタイ人の会計士は残高確認(確認上の送付など)を行わないで監査報告書を作成している場合、また、サンプルチェックを行っていても金額基準以下の売掛金が対象とされている場合などは発覚しない可能性が考えられます。監査において会計士に任すのではなく、滞留債権の確認は日本人がしっかりと行うことが求められます。
【不正事例:Add Back Expense】
直接的な不正ではありませんが、上記の簿外金庫を作る際などに利用される会計上の科目が「Add Back Expense」というものです。
使途不明金や業務に関連しない費用などを税務上の損金不算入(税務上の費用には計上できない)項目として「Add Back Expense」に計上するのですが、内容を精査しなければどのようなものに支払いを行っているかが不明です(そもそも使途不明金を計上するものですので)。
また、監査においてもタイ人の会計士は、この「Add Back Expense」を利用したがる傾向があります。それは「Add Back Expense」が損金不算入(税務上の費用には計上できない)項目であり、「Add Back Expense」に含めるだけで税務リスクがなくなり、かつ、監査手続きも容易になるためです。
そのために監査報告において「Add Back Expense」の内容について言及されない場合などは注意が必要であり、そのような場合には日本親会社が主導して「Add Back Expense」を確認する必要があります。
このようにタイにおいては、毎年法定監査があるにも関わらず不正事例も相当数発生している現状があり、タイ人の会計士にすべてを任せてしまうと予期せぬ不正が横行してしまっていたなどの事態も生みかねません。
(タイ人の会計士は監査にて不正を発見する視点を持っているとは言い難いため)タイ人会計士に不正を防止してもらおうと考えるのであれば、日本本社主導で監査を行うことを考えることが必要です。
もちろんタイ人会計士の中には「帳簿外の不正」に関してもしっかりと考えている会計士もいますので、まずは話し合いの機会を持つことが重要です。もし、事前に話し合ったとしても監査において不正の確認が行われないのであれば、第三者のコンサルを利用して業務の実態調査などを行うことも考えられます。
不正が発覚する前にタイ人の従業員は会社を辞めてしまっていることが多いため、不正を排除するのであれば会社の体制として不正が起こらない仕組みを作ることが必要です。まずは自社の実態を把握し、改善する個所がどこかを見極めてもらえればと思います。
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